第十話

FIRST GREETING

NOCTRAになって、

最初のスタジオだった。

*

「できました!」

スタジオに入ってすぐ、

YUMEが言った。

「なにが?」

HINATAが聞く。

YUMEは、

待ってましたと言わんばかりに、

黒いノートを開いた。

「アルバム!」

「早くない!?」

RINOが笑う。

「まだ曲ないでしょ」

「作るじゃん」

「それはそうだけど」

「だからアルバム」

「どういう理屈?」

YUMEは気にしない。

得意そうに、

ノートを三人へ見せた。

そこには、

大きく書かれていた。

『はじめまして!』

「どう?」

少しだけ間があった。

「いいじゃん!」

RINOが最初に言った。

「RINO好き!」

KANAも、

「いいと思う」

と答える。

HINATAも、

少し笑った。

「なんかYUMEっぽい」

「でしょ?」

YUMEが嬉しそうに言う。

「NOCTRAの最初だから」

黒いノートを指で叩く。

「はじめまして!って」

「そのままだね」

「そのままがいいじゃん」

それも、

なんとなく分かった。

まだ、

誰もNOCTRAを知らない。

ライブもしていない。

曲も、

これから作る。

だから。

はじめまして。

それ以上でも、

それ以下でもなかった。

*

「あとね」

YUMEが言う。

「まだある」

「まだ?」

「うん」

ページをめくる。

「一曲目」

「もう作ったの!?」

RINOが身を乗り出した。

「全部じゃないよ?」

「どこまで?」

「骨組みと歌詞」

「ほぼ作ってるじゃん!」

「そう?」

YUMEは、

本当に分かっていない顔をしていた。

KANAがノートを見る。

HINATAも覗く。

曲の流れ。

コード。

言葉。

まだ、

全部が完成しているわけじゃない。

でも。

そこにはもう、

一曲の形があった。

「この前決めたんだよね?」

RINOが聞く。

「何を?」

「13曲」

「うん」

「で、もう一曲持ってきたの?」

「うん」

RINOがYUMEを見る。

少し黙る。

それから笑った。

「なんだ、この子、天才じゃん。笑」

「え?」

「褒めてる!」

「ほんと?」

「ほんと!」

YUMEが少し照れたように笑う。

KANAは、

もうノートを見ながらギターを触っていた。

「ここ、弾いていい?」

「いいよ」

「このコード?」

「うん。でも変えてもいい」

KANAが音を鳴らす。

RINOも、

すぐドラムの方へ向かった。

HINATAは、

ノートに書かれたタイトルをもう一度見る。

『はじめまして!』

悪くない。

むしろ、

すごくいい。

でも。

「なんかさ」

「なに?」

YUMEが見る。

「日本語だとあっさりしてて嫌だな……」

「え?」

「アルバムの名前」

「嫌なの?」

「嫌っていうか」

HINATAは少し考える。

「意味は好き」

「じゃあいいじゃん」

「でも、なんかもうちょっと」

「なに?」

「分かんない」

「分かんないんじゃん」

RINOが笑う。

「うるさい」

その横で、

KANAが立った。

何も言わない。

ホワイトボードへ向かう。

ペンを取る。

四人が見る。

KANAは、

大きく書いた。

FIRST GREETING

「……」

YUMEが読む。

「ファースト、グリーティング」

「最初の挨拶」

KANAが言う。

HINATAが、

もう一度見る。

FIRST GREETING。

「……いい」

「でしょ」

KANAが言った。

「なんでちょっと得意そうなの」

「別に」

YUMEは、

ホワイトボードと黒いノートを交互に見る。

『はじめまして!』

FIRST GREETING

少し考えてから、

笑った。

「じゃあこれ!」

「早いね」

「いいじゃん」

「RINOも好き!」

KANAは、

そのままギターへ戻る。

YUMEは黒いノートへ、

新しく書き足した。

FIRST GREETING。

*

その日から。

NOCTRAは、

FIRST GREETINGを作り始めた。

YUMEが、

言葉と曲を持ってくる。

四人で鳴らす。

変える。

戻す。

足す。

減らす。

また鳴らす。

うまくいかない日もあった。

一日中やって、

何も残らない日もあった。

最初からやり直す曲もあった。

YUMEが新しい歌を持ってくるたびに、

KANAは必要な音を探した。

RINOは、

曲全体を見ながら叩き方を変えた。

HINATAは、

言葉がちゃんと届く場所を探した。

誰か一人だけでは、

完成しなかった。

一人が生み出したものを、

四人で育てていった。

一曲。

また一曲。

季節が変わる。

四人も変わる。

音も変わる。

それでも、

作る。

十三曲。

あの日、

YUMEが唐突に言った数まで。

約一年。

長いようで、

振り返れば、

ずっと四人で音を鳴らしていた。

そして。

NOCTRAは、

十三曲を作った。

最初の挨拶をするために。

FIRST GREETING。

ここから、

NOCTRAの音楽が始まっていく。

第1章 完