第0話
名前も知らない
「先輩、知ってます?」
そう聞かれて、HINATAは顔を上げた。
「なにが?」
「最近、大森の駅前で歌ってる子。」
放課後だった。
高校を卒業してからも、たまに顔を出すと、軽音部の後輩たちは前とあまり変わらない調子で話しかけてくる。
誰がバンドを組んだとか。
誰と誰が揉めたとか。
新しく買ったエフェクターがどうとか。
だから、その話も最初はその一つだった。
「高校卒業したばっかの子らしいんですけど。なんか、ちょっと面白いんですよ。」
「へえ。」
「自分の曲とかやってるっぽくて。」
「ふうん。」
それで終わった。
名前も聞かなかった。
次にその話を聞いたのは、何日かあとだった。
別の子が、
「そういえば、駅前で歌ってる変な子いるじゃないですか」
と言った。
「変な子?」
「あれ、知らないですか?」
そこで初めて、前にも似た話を聞いた気がした。
「……ああ。自分の曲やってる子?」
「そう、それです。」
その時も、それ以上は聞かなかった。
ただ、二度聞いたせいで、少しだけ残った。
駅前。
高校を卒業したばかりの子。
自分の曲。
ちょっと変。
それだけ。
だからその日、大森駅の前を通った時も、最初は気づかなかった。
人の声がしていた。
誰かが歌っている。
珍しいことじゃない。
そのまま通り過ぎるつもりだった。
けれど、何歩か歩いて。
HINATAは止まった。
振り返る。
少し離れたところに、ギターを抱えた女の子がいた。
大勢が囲んでいるわけでもない。
誰もが足を止めているわけでもない。
駅前の音に混ざって、普通に流れていきそうな歌だった。
なのに。
HINATAは、もう少しだけ聞いた。
「先輩、知ってます?」
そう聞かれて、HINATAは顔を上げた。
「なにが?」
「最近、大森の駅前で歌ってる子。」
放課後だった。
高校を卒業してからも、たまに顔を出すと、軽音部の後輩たちは前とあまり変わらない調子で話しかけてくる。
誰がバンドを組んだとか。
誰と誰が揉めたとか。
新しく買ったエフェクターがどうとか。
だから、その話も最初はその一つだった。
「高校卒業したばっかの子らしいんですけど。なんか、ちょっと面白いんですよ。」
「へえ。」
「自分の曲とかやってるっぽくて。」
「ふうん。」
それで終わった。
名前も聞かなかった。
次にその話を聞いたのは、何日かあとだった。
別の子が、
「そういえば、駅前で歌ってる変な子いるじゃないですか」
と言った。
「変な子?」
「あれ、知らないですか?」
そこで初めて、前にも似た話を聞いた気がした。
「……ああ。自分の曲やってる子?」
「そう、それです。」
その時も、それ以上は聞かなかった。
ただ、二度聞いたせいで、少しだけ残った。
駅前。
高校を卒業したばかりの子。
自分の曲。
ちょっと変。
それだけ。
だからその日、大森駅の前を通った時も、最初は気づかなかった。
人の声がしていた。
誰かが歌っている。
珍しいことじゃない。
そのまま通り過ぎるつもりだった。
けれど、何歩か歩いて。
HINATAは止まった。
振り返る。
少し離れたところに、ギターを抱えた女の子がいた。
大勢が囲んでいるわけでもない。
誰もが足を止めているわけでもない。
駅前の音に混ざって、普通に流れていきそうな歌だった。
なのに。
HINATAは、もう少しだけ聞いた。