第二話
よゆーよゆー!
初めてちゃんと話した時、
この子、本当に大丈夫かな。
と思った。
*
その頃、
わたしも時々サポートでスタジオに入っていた。
RINOとちゃんと話したのも、
そのうちの一回だった。
ドラムを叩いている時のRINOは、よく笑う。
演奏中なのに笑う。
曲が終わっても笑っている。
誰かがミスしても空気を重くしないし、
自分が間違えた時も、変に引きずらない。
でも。
適当なわけじゃない。
そこが、最初はよく分からなかった。
「もう一回、頭からやる?」
誰かが言う。
「やろやろ!」
RINOがスティックを鳴らす。
「次いける?」
「よゆー!」
カウント。
曲が始まる。
さっきまで喋っていた人と、
同じ人とは思えない。
ドラムが入った瞬間、
音がまとまる。
前に出るところ。
引くところ。
ちゃんと見てる。
ちゃんと聴いてる。
なのに、
本人はずっと楽しそうだった。
「……すご」
思わず言った。
曲が終わる。
RINOがこっちを見る。
「ん?」
「いや、なんでもないです」
「なになに? 褒めた?」
「褒めてないです」
「絶対褒めたじゃん!」
「いや、本当に……」
「照れなくていいってー!」
「……元気ですね」
「それ褒めてる?」
「違います」
「ひど!笑」
笑い声が響く。
本当に明るい。
でも。
不思議と嫌じゃなかった。
*
休憩になった。
RINOはすぐに近くの人と喋り始めた。
さっきまでほとんど知らなかったはずなのに、
普通に会話している。
距離が近い。
早い。
わたしには、
なかなか真似できそうにない。
「HINATAだよね?」
突然、
RINOがこっちを見る。
「そうです」
「ベースなんだね。かっこいいじゃん」
「普通ですよ」
「えー? かっこいいよ」
「本当に見て言ってます?」
「見てる見てる」
そう言って、
RINOは笑った。
なんなんだろう、この子。
明るい。
よく喋る。
人との距離を詰めるのが早い。
でも、
嫌な感じはしない。
むしろ、
こっちが身構える前に、
勝手に普通にされている感じがする。
「HINATAは?」
「なんですか?」
「今日楽しい?」
「普通です」
「うわ、出た」
「なにがですか」
「楽しい時に普通って言うやつ」
「決めつけないでください」
「じゃあ楽しくない?」
「……」
「ほらー!」
「……うるさいです」
RINOが笑う。
わたしも、
少しだけ口元が緩んだ。
*
演奏が再開した。
途中で、
曲の流れが何度か止まった。
「ここ、なんか変じゃない?」
RINOが言った。
「変ですか?」
「うん。ここさ」
スティックを持ったまま、
流れを口で説明し始める。
「このまま行くより、一回減らした方が次でドーンってならない?」
試す。
さっきより良かった。
「でしょ?」
RINOが笑う。
また別の場所。
「そこ一個なくしてもよくない?」
試す。
今度も良くなる。
ドラムだけを考えているわけじゃない。
曲全体を見ている。
増やしたり。
減らしたり。
順番を変えたり。
それを、
難しい顔ひとつせずにやっている。
「RINO」
「んー?」
「そういうの、いつもやるんですか?」
「そういうの?」
「曲、変えたり」
「あー」
少し考えて、
「楽しいじゃん」
と言った。
それだけだった。
「良くなった方が楽しいし」
「……そうですか」
「なに?」
「いや」
この子、
ただ明るいだけじゃないんだ。
*
終わったあと。
RINOはまだ元気だった。
「腹減ったー!」
「さっき何か食べてませんでした?」
「食べたよ?」
「じゃあなんで」
「食べたら次お腹減るじゃん」
「意味分かんないです」
「普通じゃない?笑」
「そうですかね」
RINOがまた笑う。
最初より、
空気がずっと軽くなっていた。
誰か一人だけの力じゃない。
でも。
RINOがいたから、
そうなった部分はきっとある。
荷物をまとめながら、
少し迷う。
「RINO」
「ん?」
「連絡先、交換しません?」
「いいよ!」
早い。
「またスタジオ入ることあったら、連絡します」
「やろやろ!」
「本当に即答ですね」
「だめ?」
「いや、別に」
言ってから、
少しだけ自分でも気づいた。
さっきより、
返しが短くなっている。
RINOは気にした様子もなく、
スマホを出した。
交換はすぐ終わった。
「じゃあ、また」
「うん。またねー!」
RINOが手を振る。
そのまま、
まだ誰かと喋りながら歩いていく。
ずっと笑っているドラマー。
最初は、
本当に大丈夫かなと思った。
でも。
今は少しだけ、
また一緒にやってみたいと思っていた。
理由は、
まだうまく説明できなかった。