第八話
四人で、バンドやらない?
家に帰ってからも、
少しだけ、
今日のことを考えていた。
*
YUME
黒いノートを開く。
今日教えてもらったバンドの名前が、
何個も並んでいる。
その横に、
思いついた言葉を少し書いた。
でも、
すぐ手が止まった。
今日のスタジオ。
四人で鳴らした曲。
ご飯を食べながら話したこと。
RINOちゃんが笑って。
KANAちゃんが短く答えて。
HINATAちゃんが、
なんだかんだ最後までいた。
楽しかった。
次も決まっている。
その次は?
そこまで考えて、
YUMEはペンを止めた。
「……」
次も。
その次も。
もっと先も。
四人だったらいい。
そう思った。
黒いノートに、
小さく書く。
四人。
少し眺める。
それから、
その下にもう一つ書いた。
バンド。
*
HINATA
ベッドに入っても、
すぐには寝なかった。
別に、
何か大きなことがあったわけじゃない。
スタジオに入って。
曲をやって。
ご飯を食べて。
くだらない話をして。
帰った。
それだけ。
でも、
帰って一人になると、
少し静かすぎる気がした。
この時間が、
ずっと続けばいいのに。
店にいた時、
そう思った。
でも。
続けばいい、
じゃなくて。
続けたいんじゃないか。
自分でそう思って、
少しだけ笑った。
「……バンドか」
声に出してみる。
変な感じはしなかった。
次に会ったら、
話してみようと思った。
*
KANA
ギターを弾いていた。
いつもと同じ。
家に帰っても、
結局触る。
でも、
今日は同じじゃなかった。
一人で弾いているのに、
頭の中には別の音がある。
ドラム。
ベース。
声。
自分のギターだけでは、
曲が完成しない。
前なら、
それが嫌だったかもしれない。
もっと弾けばいい。
もっと上手くなればいい。
そう考えていた。
でも、
今は違う。
また、
四人で弾きたい。
ギターを置く。
少しだけ考える。
次も決まっている。
その次も、
ある方がいい。
「……」
バンド。
その言葉が、
初めて自分のことみたいに聞こえた。
*
RINO
「絶対バンドじゃん」
家に帰ってから、
RINOは一人で言った。
誰もいない。
でも言った。
「もうバンドでよくない?」
一回目から、
またやりたいと思った。
二回目は、
もっと楽しかった。
演奏だけじゃない。
終わったあとも。
ご飯も。
話している時も。
全部。
サポートなら、
次の予定が終われば終わる。
また別の場所へ行く。
それが普通だった。
でも、
今回は嫌だった。
終わってほしくない。
「RINO、メンバーがいいな」
口に出す。
少し笑う。
次のスタジオで、
言おう。
そう決めた。
*
三回目のスタジオの日。
YUMEは、
電車の中で黒いノートを開いていた。
前に書いた、
四人。
その下の、
バンド。
何度見ても、
消したくならなかった。
今日、
言ってみよう。
そう思ってノートを閉じた。
*
HINATAは、
駅からスタジオまで歩いていた。
どう言えばいいんだろう。
バンドやらない?
それでいいのか。
もっとちゃんと話すべきか。
考える。
でも、
たぶん。
ちゃんと話そうとすると、
余計に変になる。
今日、
三人に聞いてみよう。
*
KANAは、
ギターケースを持って歩いていた。
言葉は、
もう決まっていた。
バンドにする?
それだけ。
長く説明する必要はない。
やりたい。
だから聞く。
それでいい。
*
RINOは、
歩きながらスマホを見ていた。
グループのやり取り。
今日の時間。
場所。
確認。
閉じる。
「今日言お」
小さく呟く。
「RINO、メンバーになりたいって」
言ってから、
少しだけ笑った。
*
スタジオの前。
最初にいたのは、
KANAだった。
その次に、
HINATA。
「おはよ」
「おはよう」
少し間が空く。
HINATAは、
言おうかと思った。
でも。
「……」
今じゃない気がした。
KANAも、
何か言いかけたように見えた。
「なに?」
「別に」
「そっか」
そこへ、
「おはよー!」
RINOが来た。
「今日さ」
言いかける。
止まる。
「なに?」
HINATAが聞く。
「……あとで!」
「なにそれ」
「あとで言う!」
RINOが笑う。
その直後、
「みんな早い!」
YUMEが来た。
「YUMEが遅いんじゃない?」
RINOが言う。
「間に合ってるよ?」
「今日は迷った?」
HINATAが聞く。
「迷ってない!」
「ほんと?」
「ほんと!」
少し間を置く。
「たぶん」
「たぶんって何」
四人で笑う。
結局、
誰も言わなかった。
*
スタジオに入る。
いつもの場所。
いつもの準備。
もう、
誰に何を説明する必要もない。
RINOがドラムへ座る。
KANAがアンプを繋ぐ。
HINATAがベースを持つ。
YUMEが白いギターを構える。
「今日どこからやる?」
YUMEが聞く。
「最初から」
KANAが言う。
「やろ!」
RINOがスティックを上げる。
カウント。
始まる。
三回目だった。
一回目みたいに、
ぐちゃぐちゃにはならなかった。
二回目より、
さらに早く音が馴染む。
YUMEが歌う。
KANAがその隙間へ音を置く。
HINATAが下で支える。
RINOが全部を聞きながら叩く。
途中で、
YUMEが止めた。
「ここ違う」
「何が?」
HINATAが聞く。
「なんか多い」
KANAが一音減らす。
「これ?」
「もうちょっと」
RINOが少し変える。
「こう?」
YUMEが歌ってみる。
「うん。今の好き」
もう一度。
また変える。
また戻す。
誰かが言って。
誰かが試して。
誰かが聞いて。
また鳴らす。
もう、
それが普通になっていた。
*
休憩になった。
RINOが飲み物を飲みながら、
三人を見る。
言おうと思った。
でも、
YUMEが黒いノートを書いている。
KANAはギターを触っている。
HINATAはスマホを見ている。
「……」
あとでいいか。
そう思った。
たぶん、
全員同じだった。
誰も、
まだ言わない。
*
時間いっぱいまで、
何度も鳴らした。
最後の一回。
曲が終わる。
音が消える。
RINOがスティックを置く。
KANAがギターから手を離す。
HINATAもベースを下ろした。
「今日よかったね」
YUMEが言った。
「よかった!」
RINOが答える。
「前より合ってた」
HINATAが言う。
KANAも頷く。
片付けが始まる。
いつもなら、
そのまま帰る。
でも。
今日は、
四人とも少し遅かった。
誰かが何かを待っているみたいに。
YUMEが、
黒いノートを閉じた。
「ねえ」
三人が見る。
「なに?」
HINATAが答える。
YUMEは、
少しだけ黙った。
珍しく、
言葉を選んでいるように見えた。
「わたしさ」
黒いノートを持ったまま、
三人を見る。
「この前、帰ってから考えてたんだけど」
「うん」
「次もやるじゃん?」
「やる」
KANAが答える。
「その次もさ」
YUMEが言う。
「やりたい」
RINOがすぐ頷く。
「RINOも」
HINATAも、
「わたしも」
と言った。
KANAも、
短く頷いた。
YUMEが三人を見る。
少しだけ、
笑う。
「じゃあさ」
一度、
息を吸う。
「四人で、
バンドやらない?」
静かになった。
ほんの少しだけ。
HINATAは、
思わず笑った。
「なに?」
YUMEが聞く。
「いや」
「変だった?」
「違う」
HINATAは三人を見る。
RINOも笑っている。
KANAも、
少しだけ口元が緩んでいた。
「わたしも今日、
それ言おうと思ってた」
「え?」
YUMEが目を丸くする。
「RINOも!」
「ほんと?」
「RINO、メンバーになりたいって言おうと思ってた!」
YUMEがKANAを見る。
「KANAちゃんは?」
KANAは少しだけ間を置いた。
「バンドにする?って聞こうと思ってた」
「え」
YUMEが三人を見る。
「みんな?」
「みたいだね」
HINATAが言う。
「……すご」
YUMEが笑う。
「じゃあ、
もう決まりじゃん」
RINOが言った。
「決まり?」
YUMEが聞く。
「四人でやるの」
少しだけ静かになる。
今度は、
さっきとは違う静けさだった。
HINATAがYUMEを見る。
YUMEがKANAを見る。
KANAがRINOを見る。
RINOが三人を見る。
誰かに集められたからじゃない。
一回だけ試したかったからでもない。
楽しかったから、
だけでもない。
それぞれ、
一人になったあとで考えて。
それでも、
またこの四人を選んだ。
YUMEが、
黒いノートを開いた。
「じゃあ」
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「次、
名前いるね」
まだ、
名前はない。
でも。
その日、
初めて。
四人は、
四人でいることを、
自分たちで選んだ。